11月19日公開
ロンドン映画祭で注目を集めた監督の1人、濱口竜介監督作。
なにしろ2作品が映画祭参加、それも1作はベルリン国際映画祭で銀熊賞(審査員グランプリ)受賞の『Wheel of Fortune and Fantasy』、そしてカンヌ国際映画祭で脚本賞、国際映画批評家連盟賞、エキュメニカル賞、AFCAE賞の4冠に輝いた本作だ。
『Wheel of Fortune and Fantasy』は短編映画3編をつないだオムニバスで、濱口監督の上手さが際立つ。一方、1つのテーマをじっくり掘り下げた本作は見応えがある。だが、本作の基になっているのは村上春樹の同名短編小説だ。大江崇允とともに脚本も手掛けた濱口監督は、原作に厚い肉付けを施している。
妻を亡くした俳優の家福(西島秀俊)だが、妻は自分を裏切っていた。消えることのない苦しみの中にいる家福の、専属運転手となるのがみさき(三浦透子)だ。
化粧っ気もなく、着飾ったりもせず、淡々と運転するみさきにもまた、亡くした人がいた。
問う相手を失ったことにより、終わることのない失意の中にいる人に、救いはあるのか。
原作ではさらりと描かれるアントン・チェーホフの戯曲「ヴァーニャ伯父」中の一節が、家福の、そして、みさきの状況とシンクロして、胸に迫る。