3月4日公開
クリオ・バーナード監督の地に足の着いたラブストーリー。
生活感あふれる映画を書いて撮る、脚本家でもあるクリオ・バーナード監督が、イギリスのキッチンシンクリアリズムを継いでいるのは間違いないが、リアリスティックな生活の場にアートな表現が混じるのがバーナード監督の個性だ。
2010年の長編デビュー作The Arborが衝撃だった。ドキュメンタリーの形をとりながら、広場に現れたリビングルームでブラッドフォード住民注視の中、ドラマが始まったかと思えば、屋内のベッドが火を噴き燃えあがる。
それから数え4作目となるこの映画も、その個性は遺憾なく発揮されている。
映画は、車上で踊る男から始まる。若くも、とりたててカッコ良くもない男だが、どっぷりと音楽に浸っているのが見て取れる。そこから、その男アリの日常へと移っていく。
アリは既に関係の切れた妻と、同居を続けている。親たちの手前、夫婦を装う生活は、結婚が破綻したことに深く傷ついているアリには、拷問だ。
そんな中で出会った女性アヴァもまた、苦しみを抱えている。長らく忘れていたような楽しい時を共にした2人は、お互いに慰めを求めるように惹かれあっていく。だが、インド系のアリと、孫もいるイギリス女性のアヴァ、それぞれに事情のある家族もいる。
言ってみれば、おじさんとおばあさんの恋愛ものだが、その年齢の分だけ、人間味あふれ、ロマンチックでもセクシーでもないだけ余計2人に幸あれと願ってしまう。